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由布院がこれから大切にしていく3つのキーワード~本保芳明氏の対談を終えて~

由布院がこれから大切にしていくキーワード

観光に長く携わってきた本保芳明氏とプロジェクトの発想と現状、そして由布院の未来について話し合いを行っています。

本保芳明
1974年運輸省入省。経済協力開発機構(OECD)参事官、国土交通省大臣官房総合観光政策審議官などを歴任し、2008年に観光庁初代長官に就任。国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所代表、東京都立大学客員教授を務めている。

桑野和泉
株式会社玉の湯代表取締役 1964年大分県湯布院町(現由布市)生まれ。家業の宿「由布院玉の湯」の専務取締役を経て、2003年より代表取締役へ就任。由布院温泉観光協会長を12年勤め、現在は(一社)由布市まちづくり観光局代表理事。公益社団法人ツーリズムおおいた副会長。道守大分会議代表世話人ほか、市民グループの代表、世話人も務める。

松岡恭子
九州大学卒業後、東京都立大学大学院、コロンビア大学大学院で修士課程修了。建築家として、街に新風を吹き込む建築空間、人々の屋外活動を豊かにする公共空間を国内外で生みだしてきた。コロナ禍がもたらす社会変化への危機感から、福岡の都心を九州の文化発信ハブとする社会実験「One Kyushu ミュージアム」を発案、食や伝統工芸などの多彩な専門家を迎えて総合プロデューサーとしても活動中。

新たなプロジェクトとこれからの観光の在り方とは

 

(松岡)2020年からコロナが続き、新しい世界観が今広がりつつあると思います。桑野さんがコロナ禍で色々と悩まれ生み出された新しいプロジェクトについてお伺いできますか。

(桑野)由布院は元来保養地と挙げながら、その保養の在り方は時代によって変化していると思うんです。
コロナ禍ではこのようなことに気づく時間がたくさんあり、その気づきの時間の中で立ち止まると、こんなに皆さんが「由布院に行きたい」と思ってくれているんだと感じました。また反対に、宿側や地域側でもう少しできることがあるんではないかということにも気づきました。コロナ禍で、「旅」が改めて重要視され、高齢の方たちや持病を持つ方たちがコロナが落ち着いてしたいことが「旅」であることを知り、その人達が気持ちよく快適に、自分らしく過ごすとなるとどうかなと考えると、今の「由布院」や「玉の湯」では十分でないなと。もっと旅先の迎える側でも出来ることがあるんではないかと考えるようになりました。それはチームを組み直せば、皆さんにそういう旅をして頂け、保養地であるからこそまずやらないといけないのではないかと思っています。これは仕組みの問題なので形を整えればどこでもできると思います。特に日本が高齢社会だからこそ先頭に立ってすることで、高齢の方たちが楽しそうで、豊かに、交流がでできている姿を世界に見せることは、日本の観光にとっていいのではないかなという想いもあり、小さくてもまず私たちが始めようというのが、今回のプロジェクトです。

(本保)高齢者向けのサービスや施設の在り方がすごく大事だと思うので、ここでこの新しい大事なセグメントに何が提供され、どのような対応がされるかとても興味深いです。松岡さんは建築家でいろんなセグメントやニーズの違うものに対してどう建築で提供していくか、利便性等を総合的に考えていらっしゃると思うんですけど、その場合の核になる考え方が建築においても旅行業と同じだと思うんです。抱えている課題なり要望なりこれにどう応えていくかは同じだと思うんですよね。そういう観点で宿と建築が組んだこのプロジェクトに僕はすごく関心があります。

多世代が混在し、と様々な人々を受容する由布院の多様性とは

 

(松岡)和泉さんや慎一郎さんに質問を投げかけ取捨選択を積み重ねていくのですが、お二人の話から環境をつくるだけで出来ることがすごくたくさんあると感じています。もちろん健常者の人や若い人にも泊まっていただく施設なのですが、体の具合があまり良くない方との共存を建築的にどう解決するのかを悩んでいましたが、それは解決しなくていいと言っていただきました。みんな一緒にいるのが社会だから、と。具合が悪くなった方をどうお部屋から外に出していくか、他の方から見えないようにしなきゃいけないかもしれないとか、そういう余計な心配してたんですけど、そんなことしなくていいとおっしゃっていただいて。社会はそういうものなんですと。
あまりハードを充実させすぎるより、完結させないとかある意味未完成なままにしておく、足りないところを作っておくということが結局は地域との接点を増やすきっかけとなっていくのではないか。そこがまさに今回のプロジェクトの肝の一つであるかなと思っています。

(桑野)ありがとうございます。私は多様な方がいることが街の姿だと思っています。今回、病院や施設でなく「ホテル」でありたかったのは、ホテルは街の顔であり街とつながり、多様な人たちが多様にいることが認め合える場なんですよね。同じ層の同じ人ではなく、街の中のホテル機能というのは、いろんな人たちが入り交じりながら過ごす時間が一番いいのかなと。その中ですべき事を選択していくのですが、それも街と一緒で、運営しながら考え、育んでいけたらと思っています。私たちも一緒に成長したいですし、バリアフリーっていう考え方もユニバーサルの考え方をより進化したものとして、宿の中でも表現できればいいのかなと思っています。

(本保)ヨーロッパとか、アメリカってちょっといい加減なところがあるでしょ。完璧な答えを出すことを常に求めておらず、ある一定レベルの答えが出たらその中で工夫してうまくやっていくような。日本はそのあたりものすごく苦手で、どの分野でも完璧な答えを出そうとしてきて、それで日本は結果的に行き詰まってると思うんです。そういう意味でまさに今されていることは色々な方法を組み合わせて多様な成り立ちのものに対して、こちらも多様な手段で緩やかになっていくという、それはすごく大事なことだと思うんです。いいなと思いますね。
最近で言うとユニバーサルツーリズムとか、より多様なニーズにこたえる動きが出てきているし、だいぶ成熟しつつあると思うけれど、日本社会って多様性に対して異常に弱いというか、元々が多様性を想定しないで色々なものが出来上がっていますよね。

(桑野)緩やかであることが人間社会の持っている強みですし、都市ではなく保養地がそれをできることが役割だと思うのです。そういう面では実験の場であると思います。もともと由布院は外からの風を受け入れて、街が変化する。そこが由布院の居心地の良さだったと思うんです。ただ、今少しずつ薄れてきているので、由布院の中で原点に帰ることも私たちが考えないといけないと思っています。由布院はいつも外の風を受け入れてきたはずなのに、なんか閉じてしまっている感じもしますね。

由布院の良さである”つながり” 色々なつながりを考えていく

 

(松岡)今回のキーワードとして「多様性を受け入れること」や、「地域に対して閉じない」つまり桑野さんが保養と言って観光とは言わない部分になると思うんですが、保養というのは日常から隔絶された非日常ではなくて、日常の延長にあるものであって。身を置く地域とのつながり、近隣とのつながりや街の空気感とも繋がっていて、高い塀の中で非日常や別世界を味わう感じではなく、もっと開いたイメージを桑野さんがおっしゃられて、それも由布院らしいなと思っています。

(桑野)由布院が持つ緩やかさは、実は一番の豊かさに繋がるのではないかと思っています。宿として、地域として良質なものをどう作るか。それをどう深めていくかが今後大切だと思っています。また次の世代につなげていくために、玉の湯とは別の空間を作ることによって、お互いの気付きになって仲間が増えていくといいなと思っています。チャレンジをしないと仲間も増えないし外の方と一緒に考えていけないですよね。

(本保)由布院の良さでいうと、健太郎さんや薫平さんが作ってきた世界の素晴らしさは進化を可能とするダイナミズムだと思うんです。時と共に周りを巻き込みながら、自分たちも成長しながら変化をしていく。そんなダイナミズムを作って動かしてきたのが薫平さん達じゃないかという気がするんですよ。桑野和泉という稀有な存在を後継者として選び、次の世代のダイナミズムを維持していく。そしてまた次の世代も、周囲を巻き込みながら自らも変化をしていく。そうじゃないと生き残っていけないわけですから。その仕組みづくりをされているんだろうなと思っています。
他の地域ではないことなんですよ。小さい範囲でしかできなくて仲間内だけで終わってしまう。それを健太郎さんや薫平さんという稀有な人達が広く地域で実現していることが由布院の素晴らしさであり、驚きなんですよね。

(桑野)ありがとうございます。そういう世代の中で育った私にとって、スピリッツや考え方を次につなげていくことが大事なことだと思っています。中継ぎの世代だからこそ、まだ先人たちも元気なうちに示していかなければいけないと思っています。父達がどういう人生の終わりを迎えていくかということが、由布院の街に問われていることですし、私がそれを見て育ってきたように次の世代にも順番に繋がっていくのかなと思っています。それは保養地の宿として形にできればと。また街としても考えていかないといけません。現在動いている植樹のプロジェクトで、街に森を作っていこうとか、100年単位のビジョンでこれからを考え、私たちがどこに位置しているのか、そういう時間軸も見えてくるといいなと思っています。

長期滞在型の保養地を目指して、地域が共存していく~由布院STAY~

(本保)観光行政をやってきた側からするとまさに観光行政上、最大の課題へのチャレンジですね。「長期滞在」へのチャレンジです。日本人の典型的な旅行形態は1泊2日。これで休養になってるか、保養になっているか、次のエネルギーになっているかそう考えると疑問なんですね。ところが、ヨーロッパやアメリカなどでは長期滞在が当たり前で、アジアなんかでもそういう文化がかなりある。日本ができないこれを解決していかないといけない。日本人にとっての観光の価値にも関わってきますし、産業としての健全性の向上にも繋がらない。1泊2日ではどうしても週末や連休に集中し、ピーク・オフピークの差が大きくなり生産性が落ちて、結果的には従業員の福利厚生や待遇の改善にもつながっていかないこれを解決するためには平準化していく必要がある。滞在期間が長くなるしかないと思うんです。
しかし、ソフト面でもハード面でも今の日本の観光業界はそれにはほど遠い現状で、1泊2日の旅行に対応するための仕組みばかりになっている。高齢者・外国旅行者が増え、流れとしては長期滞在が増えてきていると思う。この機会にこの課題にチャレンジしていくことが大切。由布院は数少ない長期滞在にチャレンジできる地域です。宿に客を閉じ込めないで街に出す仕組みと文化をつくってこられたので、長期滞在者が楽しめる街になっているからです。お二人の取り組みは、これを更に広げようということなので大いに成功の可能性があり、非常に期待しています。

(桑野)宿から街にと言い続けていた由布院です。昼間にお客さまが温泉街を歩くことはありえなかった時代でしたが、由布院にはカフェがあり、美術館があり、街を散策することができました。今は由布院の街自体が弱ってきて、お客さまの多さと、街のキャパシティとのバランスが崩れてきています。湯布院町はバブル期から人口が減少していない地域でしたが、コロナ前から少しずつ人口が減少し始めたのは、街の魅力が減ってきているからだと思っています。今、力を入れないと、更にお客さまが街にでていかなくなり、街の魅力を失っていくスパイラルに陥ると考えています。その危機感を凄く抱いており、外からの資本が由布院に入ってくる際は地域を理解し、地域を共に育ててくれることをお願いしています。
宿泊施設が地域と新たにつながる場を設けることや、保有するレストランを誰もが使えるよう開放したり、交流の場を増やすとか。そのような仕組みもつくりたいです。今度の施設はひとつの「共存のあり方」。
レストランを持たない宿泊施設を作ることは地域の人たちに一緒に関わってもらわないといけないので、そこが次の挑戦となると思うのです。

(松岡)由布院STAYの先には、保養で伺いたいだけの街ではなく、住みたくなる街を目指し、暮らしと一体となって来訪者も一緒に作っていく由布院。街づくりを語らない地域はないが、桑野さんと話をしていて街づくりとはこういうことかと思わされました。ほとんどの地域が糸口がみえず模索している中、由布院の改めて凄さを感じました。一人勝ちをしないという考え方ができる人は少ないですよね。

(桑野)観光は一人勝ちがありません。観光はみんなでやる方がパワーアップできます。それは訪れる人が一番求めているものなのではないかと。そういう姿ができる時代がようやくきています。
少しずつ進んでいくと由布院の保養の姿ってこういうのがあっていいよねってなってくると思います。

(本保)大変なチャレンジだけれども、由布院ならではのチャレンジと感じる。これまで努力を重ねて気付いてきた基盤の先にあるチャレンジだと思います。その意味で、今まで目指してやってきたことの一つの到達点と受け止めています。ただこの到達点が、点で終わってはいけない。由布院は保養地を目指しているから、面にならないといけない。
桑野さんの取り組みが共感を呼び、玉の湯から広がり、湯布院に、そして各地に10、20の施設ができてくる。それも新しい特別な施設を作るだけではなく、従来の旅館業の延長もありで、これが面になって、
そういうスタイルで旅行する方々のソサエティができる。そして新しい滞在の文化やスタイルが見えてきたら本当に素晴らしい。長期滞在という大きな難しい課題に対し、このやり方が答えになるのだと示すことができれば素晴らしい。

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